特定細胞加工物製造事業者
再生医療等安全性確保法に基づき、特定細胞加工物を製造しようとする際は、厚生労働省令に従って細胞培養加工施設ごとに許可または届出が必要です。これら許可等を受けずに特定細胞加工物を製造した場合は罰則が課せられます。
特定細胞加工物の製造を医療機関等以外で行うか、医療機関等内で行うのかの2パターンに分けられます。(なお、国外で製造を行う場合は認定を受ける必要があり、許可に関する法の条項が準用されますが、ここでは割愛します。)
- 国内の医療機関等以外で製造を行う場合 : 許可
- 国内の医療機関等内で製造を行う場合 : 届出
1. 管理者の設置
特定細胞加工物製造事業者は法第43条が定める通り、細胞培養加工施設ごとに施設管理者を設置しなければなりません。管理者は特定細胞加工物に係る生物学的知識があれば十分であり、薬機法の製造業許可要件となる責任技術者のような、学歴・職歴は必要ありません。
「特定細胞加工物に係る生物学的知識を有する者」とは、たとえば、細胞培養加工施設の特定細胞加工物の製造に係る教育、研究又は業務の経験を有する者又は医師若しくは歯科医師が該当します。
―法第43条―
特定細胞加工物製造事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、特定細胞加工物の製造を実地に管理させるために、細胞培養加工施設ごとに、特定細胞加工物に係る生物学的知識を有する者その他の厚生労働省令で定める基準に該当する者を置かなければならない。
2. 構造設備基準
細胞培養加工施設の構造設備は、構造設備に係る基準に適合したものでなければなりません。この基準は再生医療等技術のリスク分類、特定細胞加工物の製造場所が院内か院外かに関わらず(許可・届出に関わらず)、同じ基準が適用されます。施設が必要な構造設備基準を満たしているか、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が実地調査します。
なお、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)は構造設備基準に関してチェックリストを作成しています。下表に構造設備基準を抜粋してまとめています。
| 施設の構造 | 必要事項 |
|---|---|
| 作業所 | ・照明及び換気 ・不潔な場所からの区別 ・面積 ・防じん、防虫及び防そのための構造又は設備 ・廃水・廃棄物の処理に要する設備又は器具 ・有毒ガスを取り扱う場合の処理設備 |
| 作業室 | ・作業に必要な構造及び設備 ・排水設備の構造 ・天井の構造 ・パイプ、ダクト等の構造 |
| 作業室又は作業管理区域 | 温度及び必要に応じて湿度の維持管理できる構造及び設備 |
| 清浄度管理区域 | ・天井、壁及び床の清掃性、設備及び器具の滅菌又は消毒 ・排水設備の構造、排水口を設置していないこと |
| 無菌操作等区域 | ・天井、壁及び床の清掃性 ・設備及び器具の滅菌又は消毒 ・排水設備の構造、排水口を設置していないこと、流しを設置していないこと |
| 貯蔵設備 | 恒温装置、温度計その他必要な計器の設置 |
| 試験検査 | 試験検査の設備及び器具の設置 |
構造設備基準抜粋からもわかるように、「排水」関係の設備が細かく規定されています。特定細胞加工物の汚染リスクが最も高いエリアの一つが排水設備であるためです。
排水口は微生物が繁殖しやすい環境であるため、作業室を介して特定細胞加工物等が汚染されるリスクが高まります。清浄度管理区域には排水口を設置しないことが必要であり、やむを得ず設置する場合には排水管やトラップ及び排水を介した汚染、汚染された空気の逆流を防止できる構造を備える必要があります。
3. 製造管理・品質管理等の基準
特定細胞加工物製造事業者は、製造管理・品質管理等の基準を遵守しなければなりません。具体的には、細胞加工物の製造及び品質管理の方法、試験検査の実施方法、保管の方法、並びに文書や記録の管理方法などの策定が厚生労働省令で定められています。構造設備基準と同様に、製造管理・品質管理基準についても再生医療等技術のリスク分類、特定細胞加工物の製造場所が院内か院外かに関わらず(許可・届出に関わらず)、同じ基準が適用されます。
以下に、特に重要となる基準書について挙げています。これらは再生医療等提供計画に申請の際にも添付書類として必要となります。
基本的に各書類に定型書式はありません。作成はWord等を用いて自分自身で行います。再生医療学会等が一部ひな形・テンプレートを公表していますので、それらを適宜利用することは可能です。ただし、申請に不要な事項もかなり含まれているので適宜修正削除するなどして製造の実情にあった書類を作成しなければなりません。
「特定細胞加工物概要書」
作成者 = 再生医療等提供機関(管理者)
記載すべき事項は以下の通り。本書類は再生医療等提供機関(管理者)が作成することに注意してください。
- 特定細胞加⼯物を⽤いる再⽣医療等に関する事項
- (ア)再⽣医療等の名称
- (イ)再⽣医療等提供機関の名称、所在地及び連絡先
- (ウ)再⽣医療等提供計画の実施責任者⼜は再⽣医療等を⾏う医師若しくは⻭科医師の氏名
- (エ)再⽣医療等の概要(内容、適応疾患、期待される効果、⾮臨床試験等の安全性及び妥当性についての検討内容、当該再⽣医療等の国内外の実施状況等)
- 特定細胞加⼯物に関する事項
- (ア)特定細胞加⼯物の名称
- (イ)特定細胞加⼯物の概要(特定細胞加⼯物の特性及び規格、規格の設定根拠、外観等)
- (ウ)特定細胞加⼯物の原料等及び原料等の規格
- (エ)その他特定細胞加⼯物の使⽤上の注意及び留意事項
- 特定細胞加⼯物の製造及び品質管理に関する事項
- (ア)特定細胞加⼯物を製造する予定の細胞培養加⼯施設の名称及び所在地並びに委託の範囲
- (イ)製造・品質管理の⽅法の概要、原料の検査及び判定基準、製造⼯程における検査、判定基準及び判定基準の設定根拠、特定細胞加⼯物の検査及び判定基準
- (ウ)特定細胞加⼯物の取扱いの決定⽅法
- (エ)特定細胞加⼯物の表⽰事項
- (オ)特定細胞加⼯物の保管条件及び投与可能期間
- (カ)特定細胞加⼯物の輸送の⽅法
- (キ)その他製造・品質管理に係る事項(製造⼿順に関する事項、検査⼿順に関する事項、記録に関する事項、衛⽣管理、製造管理、品質管理に関する事項等)
「特定細胞加工物標準書」
作成者 = 特定細胞加⼯物製造事業者
- 特定細胞加⼯物概要書記載事項
- 特定細胞加⼯物を使⽤する再⽣医療等技術に関する事項
- (ア)再⽣医療等の名称
- (イ)再⽣医療等提供計画の概要(内容、適応疾患等、期待される効果、安全性及び妥当性についての検討内容、当該再⽣医療等の国内外の実施状況等)
- 特定細胞加⼯物に関する事項
- (ア)特定細胞加⼯物の名称
- (イ)特定細胞加⼯物の概要(特定細胞加⼯物の特性及び規格の設定根拠、外観)
- (ウ)特定細胞加⼯物の原料等及び規格
- (エ)その他特定細胞加⼯物の使⽤上の注意及び留意事項
- 特定細胞加⼯物の製造及び品質管理に関する事項
- (ア)特定細胞加⼯物を製造する予定の細胞培養加⼯施設の名称及び所在地並びに委託の範囲
- (イ)製造・品質管理の⽅法の概要、原料の検査及び判定基準、製造⼯程における検査、判定基準及び設定根拠、特定細胞加⼯物の検査及び判定基準
- (ウ)特定細胞加⼯物の取扱いの決定⽅法
- (エ)特定細胞加⼯物への表⽰事項
- (オ)特定細胞加⼯物の保管条件及び投与可能期間
- (カ)特定細胞加⼯物の輸送の⽅法
- (キ)その他製造・品質管理に係る事項(製造⼿順に関する事項、検査⼿順に関する事項、記録に関する事項、衛⽣管理、製造管理、品質管理に関する事項等)
- 特定細胞加⼯物を使⽤する再⽣医療等技術に関する事項
- 製造⼿順(前号に掲げる事項を除く。)
- 品質に関する事項(前⼆号に掲げる事項を除く。)
- その他所要の事項
衛⽣管理基準書
作成者 = 特定細胞加⼯物製造事業者
- 構造設備の衛⽣管理に関する事項
- (ア)清浄を確保すべき構造設備に関する事項
- (イ)清浄作業の頻度に関する事項
- (ウ)清浄作業の⼿順に関する事項
- (エ)構造設備(試験検査に関するものを除く。)の微⽣物等による汚染の防⽌措置に関する事項
- (オ)その他構造設備の衛⽣管理に必要な事項
- 職員の衛⽣管理に関する事項
- (ア)職員の更⾐に関する事項
- (イ)⼿洗いの⽅法に関する事項
- (ウ)その他職員の衛⽣管理に必要な事項
製造管理基準書
作成者 = 特定細胞加⼯物製造事業者
- 構造設備の点検整備、計器の校正等に関する事項
- 原料となる細胞の微⽣物等による汚染の防⽌措置に関する事項
- 原料となる細胞の確認等(輸送の経過の確認を含む。)に関する事項
- 特定細胞加⼯物等及び資材の保管及び出納に関する事項
- 特定細胞加⼯物等及び資材の管理項⽬の設定及び管理に関する事項
- 細胞の混同及び交さ汚染の防⽌措置に関する事項
- 特定細胞加⼯物等の微⽣物等による汚染の防⽌措置に関する事項
- 微⽣物等により汚染された物品等の処置に関する事項
- 輸送において特定細胞加⼯物等の品質の確保のために必要な措置等に関する事項
- 製造⼯程の管理が適切に⾏われていることの確認及びその結果の品質部⾨に対する報告に関する事項
- 重⼤事態発⽣時における措置に関する事項
衛⽣管理基準書
作成者 = 特定細胞加⼯物製造事業者
- 試験検査に関する設備及び器具の点検整備、計器の校正等に関する事項
- 特定細胞加⼯物等及び資材の試験検査における検体の採取等に関する事項(採取場所の指定を含む。)
- 検体の識別及び区分の⽅法に関する事項
- 採取した検体の試験検査に関する事項
- 提供先となる再⽣医療等機関からの求めに応じ実施する試験検査の結果の判定等に関する事項
- 提供先となる再⽣医療等機関からの求めに応じ実施する試験検査の結果の記録の作成及び保管に関する事項
- 原料等の供給者管理に関する事項
- 製造管理に係る確認の結果について、製造部⾨から報告された場合における当該結果についての取扱いに関する事項
なお、外部試験検査機関等を利⽤して試験検査を⾏う場合においては、検体の送付⽅法及び試験検査結果の判定⽅法等
4. 具体的な手続き方法
特定細胞加工物製造を新規で申請する場合、許可申請(院外)については「特定細胞加工物製造許可申請書」(様式第14)、届出申請(院内)については「特定細胞加工物製造認定届書」(様式第22)をそれぞれ準備します。厚生労働省申請書作成支援サイトにアクセスしてウェブ上で書類を作成します。
厚生労働省各種申請書作成支援サイトはコチラから
特定細胞加工物製造許可申請書・届書(様式第14・様式第22)
以下に様式第14・様式第22の作成に必要となる情報、留意事項等を抜粋して記載します。
- 細胞培養加工施設の名称
申請・届出者の細胞培養加工施設であることが明瞭な名称が望ましい(例:株式会社○○○○細胞培養加工センター)。病院又は診療所の手術室等を細胞培養加工施設とする場合は、例えば、医療機関名に手術室を付記すること(例:△△クリニック手術室) - 細胞培養加工施設の所在地
細胞培養加工施設が所在する住所を記入。ビルの一角である場合、ビル名、階数まで記入。 - 施設管理者に関する事項
施設管理者の略歴については、職歴、実務経験、管理経験、取得資格、著書、研究実績等のうちから、特定細胞加工物に係る生物学的知識を有することを示す主なものを記載。医師または歯科医師の場合は、「医師」、「歯科医師」と明記。 - 業務を行う役員の氏名(法人の場合)
申請者が民法法人・協同組合等(学校法人、医療法人等も含む)にあっては理事全員。
ただし、特定細胞加工物の製造に係る業務を担当しない理事を除く。
許可申請書・届書に加えて、下記のものが添付書類として必要です。
参考までに関東信越厚生局が公表している添付書類説明資料を下記に載せておきますので、そちらを参照してください。
添付書類① 細胞培養加工施設の構造設備に関する書類
- イ 細胞培養加工施設付近略図
周囲の状況がわかるものであること。例えば、航空写真が挙げられる。 - ロ 細胞培養加工施設の敷地内の建物の配置図
細胞培養加工施設と同一敷地内にある建物を全て記載するものであるが、例えばビルの一部を細胞培養加工施設として用いる場合、当該ビルの中にある細胞培養加工施設と関連のない部分の図面は含めなくても差し支えない。 - ハ 細胞培養加工施設平面図
製造工程に必要な室名及び面積が識別できるものであること。例えば、表示例として、窓、出入口、事務室、秤量室、調製室(混合、溶解、ろ過等)、充てん室、閉そく室、包装室、試験検査室、原料等の倉庫等製造工程に必要な室名を表示すること。また清浄度管理区域及び無菌操作等区域を図示すること。 - ニ その他参考となる図面
その他参考となる図面としては、主要な製造用機器器具と試験用機器器具の配置を含む図面が挙げられる。また、製造しようとする特定細胞加工物の製造工程のフロー図を含めることが望ましい。
添付書類② 登記事項証明書
法人の場合のみ必要です。履歴事項全部証明書、現在事項全部証明書、いずれでも構いません。
添付書類③ 特定細胞加工物の一覧
製造しようとする特定細胞加工物の一覧表を作成します。
特定細胞加工物の名称は当該特定細胞加工物の特徴が的確に判別できる名称である必要があります。例えば、構成細胞として用いられるiPS細胞由来細胞、脂肪組織由来幹細胞、樹状細胞等を含む名称が挙げられます。なお、製造しようとする特定細胞加工物が一種類のみの場合でも作成が必要です。
添付書類④ 細胞培養加工施設の構造設備チェックリスト
厚生労働省申請書作成支援サイト等から入手して作成します。
添付書類⑤ その他必要な書類
本文中に掲載しきれない説明書類等ある場合に添付資料として提出します。
提出
許可等における登録免許税及び手数料(届出施設の場合は不要)を添えて必要書類を提出します。許可の申請・届出いずれの場合も提出先は地方厚生局長となります。
なお、特定細胞加工物製造許可申請書(様式第14)や特定細胞加工物製造届書(様式第27)は印刷後、押印したものを提出しますが、添付書類については、再生医療等申請書類作成支援サイトにて電子ファイルをアップロードすれば、紙に印刷して提出する必要はありません。
まとめ
再生医療等の安全性の確保等に関する法律について、特定細胞加工物製造を解説しました。
再生医療を提供するためには、法律に従った導入手続きと運用が必要であり、制度の概要把握や必要書類の正確な理解が大切です。再生医療手続きの専門家である当事務所が責任をもってサポートいたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所へご相談ください。静岡県、愛知県を中心に全国47都道府県のお手続きに対応可能です。

―記事を書いたのは私です―
行政書士あくろ事務所 代表
川戸 勇士
東大大学院博士課程修了/行政書士・薬剤師・博士(薬学)
薬・医療・国際化をキーワードとする許認可手続きを業務の柱として、すべての人が健康で豊かな暮らしを実現できる社会を目指しています。
レモンサワー・とり天・うなぎが大好物。
静岡県、愛知県を中心に全国47都道府県で再生医療導入支援・申請代行可能!
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