はじめに
会社をつくることだけを考えると、自宅とは別に事業専用の事務所を確保する必要はありません。すなわち、自宅を会社の住所として設立登記することは可能です。しかしながら、外国人が日本で会社を設立する場合は話が違ってきます。
外国人が日本で会社をつくり、実際にビジネスを行っていくためにはそれに見合った在留資格、いわゆる「経営・管理ビザ」を取得しなければなりません。「経営・管理ビザ」の取得要件として、会社(事務所)の住所と自宅住所が別であることが求めらます。
このことから、外国人が会社を設立する際に、事務所を借りる資金が足りない、条件に見合った事務所がみつからない、契約のタイミングが合わないなどの理由から自宅住所を会社住所として登記することは可能ですが、経営・管理ビザの取得申請前に事業専用の事務所を確保して会社住所を変更しなければなりません。自宅兼事務所では経営・管理ビザを申請できません(一戸建ての例外はコチラ)。
ここでは、外国人が事務所を契約・確保する上での注意事項を解説します。

事務所が確保されていると認められる条件
事業専用の事務所が確保されていると認められるためには、下記の4点が満たされていなければなりません。
- 法人名義で契約されていること
- 使用目的が「事業用」であること
- 会社(事務所)としての実体があること
- 事務所として独立していること
一つずつ確認していきましょう。
① 法人名義で契約されていること
事務所の賃貸借契約は法人名義で行う必要があります。すでに個人名義で契約している物件を会社として使用することも可能ですが、その場合でも当然に法人名義へ変更しなければなりません。
② 使用目的が「事業用」であること
賃貸借契約内の使用目的が「事業用」であることが求められます。事業に使用することを明確にしなければなりません。「住居」「居住用」ではいけません。
③ 会社(事務所・店舗)としての実体があること
少なくとも他人が見て事務所だと判断できないような場所は、会社としての実体がないとして当然です。室内においては、執務机、実務机、電話、PC、プリンタなどの事務機器、外観としては会社の看板・表札・郵便受けなど、社会通念上、客観的に会社ととらえられるものが必要です。
④ 事務所として独立していること
予定している事業が問題なく行えるのであれば、広さ・大きさは問題ではありませんが、事務所スぺースとして独立していることが必要です。問題となる事例として、レンタルオフィスがあります。レンタルオフィスを事務所として使用する場合、「明確に区分けされた個室」である必要があります。コワークスペース、フリーデスクスペース、あるいは簡単なパーテーションで仕切られたスペース等は独立した事務所として認められません。なお、レンタルオフィスであっても、③のように看板や表札を掲げるなどが必要です。

賃貸借契約の注意点
一戸建ては自宅兼事務所でもOK
一戸建てを借りることができれば、自宅と事務所を同じ住所にする、つまり自宅兼事務所として経営・管理ビザ申請が認められる可能性があります。その場合、例えば1階は事務所エリア、2階は住居エリアというように明確に区分けしなければなりません。「明確に区分ける」ことが必要なので、例えばリビングを横切らなければ事務所エリアへ行けないといった構成の場合、自宅兼事務所として使用できません。
これらがクリアできるのであれば、事務所エリアと住居エリアを示す平面図などを作成してビザ申請時の添付書類とします。さらに、場所だけでなく光熱費などの共益費について、会社使用分と個人使用分用でどのように配分するのかを明確に定め、会社(法人)と社長(個人)間で契約書を作成しなければなりません。
自己所有の一戸建てを自宅兼事務所として使用する場合では、会社(法人)に対して事務所使用を認める社長(個人)の使用承諾書が必要になることがあります。
転貸借の事務所でもOK
転貸借とは、賃借人が、賃貸人との賃貸借契約関係は維持した上で、賃借人のもつ賃借権の範囲内で転借人との間でさらに賃貸借契約を締結することをいいます。法的に有効な賃貸借契約であるならば、転貸借した物件であっても事務所として認められます。ただし、通常の賃貸借からすれば転貸借は例外的なパターンであり、経営・管理ビザ申請において理由説明等の余計な手間がかかります。手間がかかればかかるほど、申請が複雑であることを意味しますので、必然的に許可難度が高くなります。
基本的には一般的な賃貸借契約を行うべきと言えるでしょう。
バーチャルオフィスはNG
バーチャルオフィスの住所は会社設立登記では有効ですが、ビザ申請では認めらていません。「明確に区分けされた個室」としての実体がないからです。
共同事務所は原則NG
同一物件に共同事務所として入居する場合、あるいは他社の事務所の一部を間借りする場合は経営・管理ビザを申請できません。事務所スペースが大きく、壁やドアで明確に区分されている場合は個別に認められる例外はありますが、原則として経営・管理ビザの申請ができないと考えておく方が良いと思います。
店舗型物件は注意!
詳しくは下記のコラムを参照していただきたいですが、経営・管理ビザはその名の通りあくまでビジネスの経営・管理を行うための在留資格です。具体的な事例を出すと、経営・管理ビザで飲食店を経営する外国人オーナーは、原則自身が厨房に立って料理を作ることができません。つまり、飲食店、リラクゼーションサロン、古物商、小売店などの店舗ビジネスの場合、これらを経営する場合は店舗内や店舗とは別にビジネスの経営・管理を行うための事務所をしっかりと確保することが必要です。
店舗ビジネスであっても、上で述べた「明確に区分けされた個室」という事務所要件は同じであり、店舗と事務所を兼用するのであれば、客席の一部をパーテーションで簡単に区切ったスペース等は事務所として認められず、独立した個室、壁やドアなので区切られた別部屋を用意する必要があります。
店舗と事務所を兼用する予定がある場合、契約前に十分に間取り等を確認してください。
経営管理ビザ申請におけるOK/NGのパターン
下記、入国管理局が公表している経営・管理ビザ申請におけるOK/NGの事例を記載しますので、あわせて確認してください。
OK: 認められた事例
Aは、本邦において個人経営の飲食店を営むとして在留資格変更許可申請(経営管理ビザ取得申請)を行った。事務所とされる物件に係る賃貸借契約における使用目的が「住居」とされていたものの、貸主との間で「会社の事務所」として使用することを認めるとする特約を交わしており、事業所が確保されていると認められた。
Bは、本邦において水産物の輸出入及び加工販売業を営むとして在留資格認定証明書交付申請(経営管理ビザ取得申請)を行ったところ、本店が役員自宅である一方、支社として商工会所有の物件を賃借していたことから、事業所が確保されていると認められた。
Cは、本邦において株式会社を設立し,販売事業を営むとして在留資格認定証明書交付申請(経営管理ビザ取得申請)を行ったが、会社事務所と住居部分の入り口は別となっており、事務所入口には、会社名を表す標識が設置されていた。また、事務所にはパソコン、電話、事務机、コピー機等の事務機器が設置されるなど事業が営まれていることが確認され、事業所が確保されていると認められた。
NG: 認められなかった事例
Dは、本邦において有限会社を設立し、当該法人の事業経営に従事するとして在留期間更新許可申請(経営管理ビザ取得申請)を行ったが、事業所がDの居宅と思われたことから調査したところ、郵便受け、玄関には事業所の所在を明らかにする標識等はなく、室内においても、事業運営に必要な設備・備品等は設置されておらず、従業員の給与簿・出勤簿も存在せず、室内には日常生活品が有るのみで事業所が確保されているとは認められなかった。
Eは、本邦において有限会社を設立し、総販売代理店を営むとして在留資格認定証明書交付申請(経営管理ビザ取得申請)を行ったが、提出された資料から事業所が住居であると思われ、調査したところ、2階建てアパートで郵便受け、玄関には社名を表す標識等はなかった。
また、居宅内も事務機器等は設置されておらず、家具等の一般日常生活を営む備品のみであったことから、事業所が確保されているとは認められなかった。
Fは、本邦において有限会社を設立し、設計会社を営むとして在留資格変更許可申請(経営管理ビザ取得申請)を行ったが、提出された資料から事業所が法人名義でも経営者の名義でもなく従業員名義であり同従業員の住居として使用されていたこと、当該施設の光熱費の支払いも同従業員名義であったこと及び当該物件を住居目的以外での使用することの貸主の同意が確認できなかったことから、事業所が確保されているとは認められなかった。
まとめ
日本で会社を設立する際の重要なステップである事務所契約について注意点を簡単にまとめました。後に必要となる経営・管理ビザの取得を目指すのであれば、法人名義で契約すること、使用目的を「事業用」とすること、会社(事務所)として実体を伴うこと、事務所として独立していることの4点に特に注意して賃貸借契約を行う必要があります。
ビザ申請では制度の概要把握や必要書類の正確な理解が必要です。ご不安やご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所へご相談ください。入管申請手続きの専門家である当事務所が責任をもって手続き完了までサポートいたします。
静岡県、愛知県を中心に全国47都道府県のお手続きに対応可能です。

―記事を書いたのは私です―
行政書士あくろ事務所 代表
川戸 勇士
東大大学院博士課程修了/行政書士・薬剤師・博士(薬学)
薬・医療・国際化をキーワードとする許認可手続きを業務の柱として、すべての人が健康で豊かな暮らしを実現できる社会を目指しています。
レモンサワー・とり天・うなぎが大好物。
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